【片付けるという技術】たった8%の男性整理収納アドバイザー「片付けパパ」はこう語る
コト 2020.02.19 by G-lip E 編集部
「家のドアを開けたら、ピカピカに片付いた部屋が待っている」そんな状態がベストだと知りつつも、毎日片付けを行うのは難しいものです。
オウチーノ総研の調査資料(※)によると、一人暮らしの社会人のうち3割が「家事と仕事を両立できていない」と答えています。仕事や趣味、付き合いなど、忙しい日々の中でもさっと片付けられるようになるにはどうしたらよいのでしょうか。
(参照:オウチーノ総研・一人暮らし社会人の「家事」実態調査)
そこで今回は、ビジネスマンとして大手電機メーカーで働きながら整理収納アドバイザー「片付けパパ」の顔も持つ大村信夫さんに、男性目線で片付けのコツを伝授してもらいました!
単なる方法論ではなく、片付けのロジックや片付けをすると人生がよりよいものとなる理由などをお伺いすると、「自分の中で基準を決めることが大切」と教えてくれました。
〈インタビュアー:イノウエ〉
イノウエ
今日は、片付けが苦手なビジネスパーソンがある程度の一定数いる気がしているので、その方たちの疑問や悩みを解決したくてお呼びしました!
大村さん
ええ、女性に限らず男性の方で悩む方も多いですよね!よろしくお願い致します。
イノウエ
早速なんですが、大村さん、普段のお仕事っていうのは「片付け」とは関係ないんですか?
大村さん
それが、まったく関係ないんですよね。
平日は電機メーカーで働いていますが、会社から兼業を認められ、平日の夜や週末などに「片付けパパ」という名前で、片付けの効果を広める活動をしています。
イノウエ
たしか、整理収納アドバイザーは、9割以上が女性で男性が非常に少ないですよね。男性だと仕事になりにくいからなんですか?
大村さん
片付けっていうと、男性も女性も家事の延長ってとらえてて「女性がやるもの」と思ってしまう人もまだまだ多いんです。
イノウエ
かといって、男性でも片付けが得意な人が中にはいると思うんです。
大村さん
いますいます。だから、片付けで男女の性差ってのはそんなにないかなと思っています。
でも一般的に男性は小さいころから、外遊びに行くときとかカバンをバーン!と玄関に置いて行ってしまうことが多いじゃないですか。
イノウエ
ハハハ… たしかに『身に覚えがある』
大村さん
女性だとおままごととか「部屋の中の空間を整える」みたいな遊びしてた方が多いことも理由なのかもしれません。
その延長で生活空間を整える習慣が付いている人が多いのかなと思っていて。育ってきた環境が影響していると思います。
イノウエ
育ってきた環境ですか⁈
大村さん
それに、幼いころはお母さんが片付けてくれることもあって、片付けのしかたがわからないまま、1人暮らしを始めて、散らかっちゃうということはよくあります。
イノウエ
ちなみに大村さんの場合、幼い頃はどんな感じだったんですか。
大村さん
親が片付けてくれてたので、正直あんまり片付けは得意じゃなかったです(笑)。
イノウエ
それでも今は、片付けられるようになっているんですね。
大村さん
そう、なので、誰しも変わることができるんですよね。僕も3.4年前までは家の中がめちゃくちゃだったんです。
みなさんと同じように「片付けはセンス」だと思ってたので諦めてたんですけど、あるとき片付けはセンスじゃなくてスキルだとわかったんです。
片付けのロジックを理解するのは、自転車の乗り方を覚えるのと同じ
イノウエ
スキル…技術ってことですか?
大村さん
片付けは、技術です。だから誰しもやればできることなんですよ。
僕も以前は家が汚かったんですけど、たまたま高校の同窓会で久しぶりに会った同級生が片付けのプロ(整理収納アドバイザー)で。家に来てもらったら本当にきれいに片付いた。
そのとき「ロジックを覚えれば誰しも片付けられる」ってことに気づいたんです。
イノウエ
もともとすごく部屋が綺麗な人とか、整理整頓が得意な人は、既にそのロジックがわかっているという事ですか?
大村さん
そうですね、直感的にわかっていたんじゃないかなと思います。
僕は、自転車と似ていると思っていて、自転車もセンスだけで乗っている人はあんまりいないですよね?
イノウエ
つまり、練習が必要なんですか…?
大村さん
運動神経が良い人だといつのまにか乗れるようになることもあるけど、ほとんどの人が最初は練習をします。それと同じで片付けも、片付け方を知れば誰でもできるんです。
「片付けはロジックだ」と分かれば、男性の方がむしろ深入りしやすいですよ。
イノウエ
深入りしてしまう世界なのか…。
大村さんの、片付けとは「次に使うためにものを使いやすい状態にすること」とブログで拝見したんですけど、使いやすい状態が、綺麗な状態とは限らないという事でしょうか?
大村さん
収納というと、テトリスみたいに綺麗に押し込むことだと思っている人が多いですが、綺麗に収納すると、出しにくい。
そうすると、後でかきわけて出したりしてまた散らかっちゃいますよね。だから僕は「しまう」状態を「スタンバイ」といい直しています。
大村さん
なので、まずはモノを減らさなければ始まらないですよね。使うものと使わないものをちゃんと区別しないと。
テレビ番組や雑誌とかだと「収納」の方が「変わった感」が出るので、そこに着目することが多いんですよね。
イノウエ
やっぱり「きれいな状態が使いやすい状態であるとは限らない」ということですね。
大村さん
そうです。片付けようというとすぐに収納用品を買いに行きたくなる人もいるかもしれませんが、まずは必要なモノと不要なモノをわける。
「収納する」だけだと、モノを移動してるだけになってしまいます。
イノウエ
まずは、「このモノ」が必要か必要でないか、判断しなければならないということですね。
大村さん
判断する基準はあった方が良いですね。
イノウエ
整理した後、収納をするコツみたいなものはありますか?
大村さん
例えば、ゴールデンゾーンと呼ばれる「自分が立ったとき1番使いやすい範囲」があるんですが、そこに使用頻度の高いものを置く。使用頻度が低いものは下の方に置いて、ほとんど使わなくて重くないものは上の方に、といった使いやすさのセオリーがあります。
イノウエ
腰から胸のあたりに、普段よく使うモノを収納するということですか?
大村さん
そうですね。上や下には、普段使わない詰め替え用品などのストックしておくものが良いですね。
また、グルーピングという「よく使うものはグループにしておく」という収納方法もあって、例えば、はさみやガムテープや送付伝票などは「宅配便セット」としてまとめて、玄関の横とか使うときの動線を意識して置くと便利ですよ。
イノウエ
使用頻度と動線で考えるっていうのはすごいですね…。意識したことが無かったです。
綺麗な部屋をキープする行動習慣は、「地上戦」ではなく「空中戦」
イノウエ
それでも、片付けて綺麗になった後、その状態を維持するのが大変というか、苦労する気がするんですけど…。
大村さん
そうですよね。綺麗になった状態を維持するためには大切な行動習慣があって、私が尊敬する 片付けの師匠から教わってとても感銘を受けたのですが、それが「置く」ということなんですが。
イノウエさん、部屋がいつ散らかるかわかりますか?
イノウエ
モノを買って増えた時ですか⁈
大村さん
実は、「置いた瞬間」なんです。
イノウエ
どういうことでしょうか…?
大村さん
例えば、ダイレクトメールとか郵便物をポストから持ってきてバン!と机の上に置いちゃうと、そこからぐちゃぐちゃになってく。
あるべき姿は、どこかに置く前にダイレクトメールを分けてゴミ箱に捨てる。これは、業界用語で「空中戦」ていうんです。
イノウエ
空中戦!たしかに1度置くとそのままにしてしまいますね…。
大村さん
そうそう、1度置いてしまうと、もう地上戦になっちゃう。
空中戦のうちにカタをつけないと泥沼化するので、空中戦で片付けてしまうんです。それに、モノには「定位置」を決めておくといいですよ。
イノウエ
僕は使いやすい状態のことを、いつでも「手に届くところにある」と思ってるので、いつもその辺に置いちゃうんですよ(笑)。
大村さん
置き収納というのもあるので、それもいいんです。ただそれで机の上がいっぱいになって、ご飯食べられなくなったら問題ですよね。
出しておくにしても箱やケースに入れておくとか、生活動線や使用頻度を考えて「定位置管理」している状態を目指すのがいいですね。
イノウエ
置き収納というのもあるんですね!
実は僕、読んだ本も収納せず置きっぱなしになってしまうことが多くて、この場合どうしたらいいんでしょうか?
大村さん
本は電子化するのが最適なんですが、実はもっといい方法があって。
なんだと思います?
イノウエ
読んだら売る?メルカリですか?
大村さん
1番いいのはここ(頭)。自分の知識にしちゃうんです。僕は、読み終わった後、要点だけをまとめてブログとかにアウトプットして、本自体は売っちゃいます。
内容を思い返したいときはブログを検索すれば出てくるし、本で重要なのはその本という物理的なものじゃなくて、「その本から何を得てどう生かすか?」というところじゃないですか。
1つの「モノを大切にする」はカッコイイ
イノウエ
大村さんは、なぜたくさんの人がモノで溢れてしまうと考えますか?
大村さん
日本の家も、江戸時代まではスッキリしていたと思うんですけど、戦後「モノをどんどん持ちましょう、モノがあることが豊か」という時代になりました。
そこに日本人の美徳である「もったいない文化」が合わさると、モノが溢れてしまうんですね。
イノウエ
たしかに江戸時代の長屋文化って、「居間」「寝室」「ダイニング」を狭い一部屋でやってますよね。上げ下げできる布団や移動できるちゃぶ台を使ったり、コンパクトに暮らしてましたね。
大村さん
そうなんです。特に100円ショップやファストファッションが出はじめてからこの傾向が強くなったと思います。
安いからという理由で「とりあえず」買っちゃうと「保有効果」といって、1度手に入れたモノに対し、実際の価値以上に感じてしまう。それで手放しにくくなるんですよ。
イノウエ
モノを速いスパンでどんどん変えすぎているのかもしれませんね。
大村さん
今はダメにならなくとも、新しいモノを次々と買ってしまいますよね。なので、モノを大事にする文化であれば、何度も買い換える必要もないのかなと思うんです。
例えば、チャールズ皇太子の履いている靴は「ジョンロブ」という高価なモノですが、彼が成人したときに買って以来、ずっと修理して使いつづけているそうですよ。
イノウエ
あぁ、有名な話ですよね。聞いた事あります!
大村さん
僕のこの腕時計は親父の形見で、もう60年ぐらい前の時計なんですけど。遺品として譲り受けたときは壊れたスクラップみたいで本当にボロボロでした。
これを2回オーバーホールして使っています。IWCというブランドで、オーバーホール代だけでも高級腕時計が買えてしまうほどなのですが、あえてこの時計を使っています。半世紀以上経ってるけど、こうやって使えるんです。
イノウエ
「モノを大切にする」というのはカッコいいし、エコな考え方でもありますね。
大村さん
エコだし、愛着が湧きますよね。やっぱり愛があると人は、丁寧に扱うようになると思っていて。
男って「愛車」っていうじゃないですか。「愛」車だからキレイにするんですよ。
イノウエ
確かに、女性は「愛車」と言わない人が多い気がしますね。逆に、車より家や室内の空間を大事にするイメージがあって。
感覚的なことだと思うんですけど、男性は家を「寝るところだけ」と考えていたり。男女と分けた場合、考え方にけっこう違いがありますよね。
大村さん
はい、それで1人だと自由にできていたのが、結婚などで一緒に住むようになった時に、同じ空間を誰かと共有しなければならなくなる。
違う人が入ってくるとうまくいかないってことが起こります。人によって価値観が違うので、同じモノでも「いる」「いらない」って意見が分かれます。
なので、どういう空間でどういう日々を過ごしたいか、ちゃんと話し合って、ビジョンを共有するといいですね。
イノウエ
「どんな感じで過ごしたいか」部屋のビジョンができると、「じゃあそれを作るためには?」って考えられますね。
大村さん
そう、判断基準ができるんです。僕は人生も同じなんじゃないかといっていて。
人生で「どう生きたい」とか「どうありたいか」って理想がないと、本当は出たくない飲み会へ出てしまったりしますよね。
イノウエ
乗り気ではない飲み会で、愚痴大会になってしまい、微妙な気持ちになるような飲み会とかは出ない。
つまり、軸があれば余計な時間もなくなるよねってゆう感じですね…。
大村さん
そうそう!まさにそれも片付けなんですよ。基準ができればそれができるようになってくる。それに整理収納アドバイザーの女性はキラキラ輝いている方が多いんです。
常に「こうなりたい」っていう基準があって判断が明確なので、人生や日常生活にも基準をあてはめて、より良い人生を過ごしているのかなと思います。
イノウエ
なるほど…忙しいビジネスパーソンでも、片付けのモチベーションをあげる方法はありますか?
大村さん
ある調査によると人は1日あたり平均9回、10分間探しものをしていてるそうです。
80年間で考えると26万回で、日数にすると202日間。その時間を時給1000円のバイトに換算すると、なんと500万円になるんです。すごい無駄だと思いませんか?
イノウエ
たしかに、こういう数字的な根拠を述べると「片付けたほうがいいな」と、多くの人が行動するきっかけになるかもしれませんね。
まとめ
3〜4年前までは片付けが苦手で、「ダメリーマン」だったという大村さん。偶然のきっかけから片付けに目覚め、今では整理収納アドバイザーとして活躍するほか、企業向けの講演やご自身のパラレルワーク経験を活かしたワークショップなども多数行なっています。
「片付け」とは、理想の過ごし方を鮮明に描くことで、必要なモノ、不要なモノの選択の基準を設け、使いやすい状態であることが大切なんです。
取材後には、単に片付けができるようになるだけでなく、判断基準を明確にして、自分にとって良い人生を生きていきたいというポジティブな気持ちに包まれました。