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【トリイソース】大正十三年創業の3代目社長がこだわる「ここでしか手に入らない」価値

モノ 2020.02.25 by G-lip E 編集部

あらゆる情報やモノがインターネットを通じて手に入る時代。生き残りをかけて「本当に価値あるものとは何か」を追求する企業が増えています。

今回は静岡県浜松市にある老舗ソースメーカー「トリイソース」を取材しました。ソースの原材料である野菜は、地元浜松産の野菜を中心に100%国産のものを使用。ソースづくりの要となるお酢も全て自家製という徹底したこだわりを持つトリイソース。

「やっぱりこの味だよね」と浜松市民から愛されつづける秘密はどこにあるのでしょうか。
創業から90年以上、変わらぬ思いと進化する味について、3代目社長の鳥居さんにお話をうかがいました。

〈インタビュアー:イノウエ〉

「地産地消」にこだわる、トリイソースの想い

イノウエ

今日は鳥居さんにモノづくりへのこだわりについて、お話をうかがいたいと思いまして。

鳥居さん

よろしくお願いします。

本名:鳥居大資 1971年、トリイソース2代目『鳥居謙一』の長男として静岡県浜松市に生まれる。慶応大学経済学部卒業後、スタンフォード大学大学院にて日米中の三国間関係を専門に修士課程修了。大学院卒業後は三菱商事株式会社に入社。審査マンとして財務分析と商事法務のスペシャリストとなる。4年間の業務で海外業務への気持ちが強くなり、その後GE(ジェネラルエレクトリック)社に転職。アジアと北米を中心に内部監査を行う。GEでの仕事が4年を経ようとした頃、2代目の入院・手術・療養を契機に家業の鳥居食品株式会社に戻り、1年後、3代目として現在の代表取締役に就任、今日に至る。

イノウエ

トリイソースさんのこだわりって、原材料である国産野菜や自家製のお酢だったり。その中でも特に地元の素材を使う「地産地消」を大切にしている理由はなんでしょうか?

鳥居さん

ソースって実は「地域性」がまだ少し残っているんですよね。西に行くほどソースが甘くなったり、東に行くとちょっと酸っぱいとか。狭い日本で地域ごとの味があるっていうは、すごく良いことだと思っていて。

イノウエ

ソースの地域性…確かにありますね。

鳥居さん

実はそれがあることで、地方の会社が生き残っていける理由にもなると思うんです。全国どこでも同じ味ってなっちゃうと、それは大手さんが強い。

でも「やっぱりこの地域はこの味なんだよね」ってなると、地方のソース屋さんが強くなれる。

イノウエ

おでんとかも、出汁に地域性がありますもんね。

鳥居さん

そうですね。そういう地域性を残すために僕らとしても「じゃあ地域の素材をなるべく使って、もっと地域の経済が循環するように」って思ってて。その考えで「地産地消」を大切にしていますね。

イノウエ

三代目の鳥居さんが受け継ぐまで、創業当時から変わらず、「地産地消」にはこだわってきたんでしょうか?

鳥居さん

そこが面白くて。

先々代のときは物流が発達していないから地元で調達するしかなかったんですが、先代になると昭和だから大量生産の時代。どちらかというと安定供給のために、地元だけじゃなくて、他の地域からも安く手に入れるっていうのが重要になったんです。

イノウエ

大量生産、大量消費の時代がありましたね。

鳥居さん

それで僕の代になると、大量生産っていうところから「もっとこだわりを持たなきゃいけないな」 ということで、また「地産地消」に回帰していったんです。

イノウエ

やっぱりそこに鳥居さんとしての「地産地消」へのこだわりがあるんですね。

鳥居さん

地方の企業が生き残っていくためには、大手さんがやらないやり方や、手を出さないところにいくしかないと思います。

その1つが「地産地消」だと思いますね。

ソースの釜には地産地消にこだわった国産野菜がぎっしり!すでにおいしそうな匂い…

イノウエ

国産野菜や地産地消の他に、原材料などへのこだわりはありますか?

鳥居さん

ソースって実はすごくたくさんお酢を使ってるんですよ。うちはそのお酢も自家製のものを使ってて。

「静置法」っていう昔ながらの製法でやってるんですが、だいたい1か月くらいで発酵が完了してお酢ができあがります。

イノウエ

発酵に1か月もかかるんですね!

自家製のお酢の原材料も地元にこだわりを?

鳥居さん

だいたい日本だと米酢がメインなんですが、うちの場合は「酒粕」を使ってて。この酒粕は去年の6月から寝かし始めたやつ、こっちはもっと前から寝かしているやつですね。

色も匂いも全然異なる、芳醇な香りになっていました。

鳥居さん

うちは浜松にある2つの蔵元さんから酒粕をいただいて、それを寝かせて使ってるんですが、この酒粕をブレンドすると、お客さまのニーズに合わせたお酢も作れるんですよ。

イノウエ

地元の酒蔵さんから仕入れるって、やっぱりここも「地産地消」なんですね。

鳥居さん

そうですね、なるべく地元のお米を使ってお酒を作って、その酒粕をお酢にする。地元での「循環」っていうものを目指してます。

東京では販売しない?「ここでしか手に入らない」という価値を大切に

イノウエ

トリイのソースが都内のスーパーなどで見かけることがなくて、どこで買えるのかなと疑問なんですが、主にどちらで販売されているんでしょうか?

鳥居さん

今は、EC販売と地元浜松の小売店さんが中心で、それ以外はあまり出していないですね。

イノウエ

それは鳥居さんのお考えで、”あえて”ということですか?

鳥居さん

自分は東京にもいたことがあるんですが、今でも東京にいる友人からのメッセージっていうのはすごく大きくて。

それで以前、東京の友人から「くすぐられ感」があるっていわれたんです。

イノウエ

「くすぐられ感」ですか?

鳥居さん

僕ら地方の人間というのは「東京が一大消費地だから、とにかく東京で売れたい」っていう気持ちがある んです。一方で東京の人たちからすると「東京にいれば何でも手に入る」っていうのが当たり前のようになってきている。

だからこそ東京でも手に入らないとか「ここまで行かないと!」っていうモノに、心くすぐられるっていわれたんですよ。

イノウエ

最近増えてますね。旅行先でお土産を買っても、実はそれって、東京で容易に手に入れることができたり…。

そうするとお土産として買ってきても、あんまり喜ばれないとこともあって。「そこでしか買えない価値」は、すごく高まってきてますよね。

鳥居さん

今はモノが溢れてるんですよね。

だから「知らない、見たことない」っていうことに対する価値が注目されてて。食品なんかは「おいしい」ってだけじゃ、もう差別化にならない時代なんですよ。

仮にうちのソースが「おいしい」って褒めてもらえても、実はそれっておいしさの尺度からすると「ちょっとおいしい」ぐらいなんじゃないかなと思いますし。

イノウエ

ネットで買って、すぐ届いて、すぐに食べられる時代ですもんね。

だけど「そこまで買いに行かなければ手に入らない」っていうストーリーが生まれると、食べるのが楽しみになりますよね。

鳥居さん

そういう観点から「あ、そうか」と。

どうせなら浜松まで来てもらえるような展開が大切だなと思って。今はもう「東京のお店にたくさん並べたい」という考え方はしないようになりました。

イノウエ

実は僕、今日の取材までソースにお酢が入ってるって知らなかったんですよ。

それを自家製で全部作ってることにすごく感動して。ソースはこうやってできるんだなって。

鳥居さん

ソースを普通に買ってしまうだけでは、中々そういう情報を知る機会はないですよね。

表面的な情報っていうのはすごく多いですけど、今は情報量が多すぎる。だからみんな突っ込んだ情報まで深堀する余裕がないなっていうのは感じます。

イノウエ

でも一歩踏み込んだ情報を知ることで、ソースが作られるストーリーも知ることができる。

「だから欲しくなる」そんな気がしました。

鳥居さん

うん、そういうストーリーを作っていきたい、作っていかないと本当に生き残れないのかなって思います。

トリイソースが親子のコミュニケーションツールになる

イノウエ

鳥居さんがトリイソースのターゲットとして考えているのは、どのあたりの年齢層なんでしょうか?

鳥居さん

やっぱり50~60代の方が1番のコアだと思ってます。

以前は「若い世代の人たちを開拓しないと将来がない」って考えていたんですけど。今の流れを見てると、やっぱり50~60代のお客さんがターゲット。

イノウエ

それは、あえてターゲットとして選んでいるんでしょうか?

鳥居さん

いえ、50~60代のご夫婦のお子さんたちが結婚して、浜松を離れて東京とか大阪とかに住んでたりするんですよ。

そこのお父さんお母さんがね、コミュニケーションツールとしてトリイソースをお子さんたちに送ってくれるんですよ。

イノウエ

コミュニケーションツールにソースですか?

鳥居さん

もちろん東京とかでは買えないっていうのもあると思うんですけど。

例えばお孫さんが「ソースおいしかった」とか「おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとう。」って言ってくれる。トリイソースがきっかけとなって、親子のコミュニケーションが生まれたりしているんです。

イノウエ

それはすごい嬉しいですね!

鳥居さん

そうそう。50~60代のお客さんがそこで喜んでくれているの見ると、無理して若い世代を狙わなくても「上の世代の人たちが、どんどん子供たちに伝えてくれているんだな」と感じて。

だから今は、上の世代の人たちにトリイソースの魅力をしっかり伝えることが大切だと思っています。

イノウエ

長い歴史のなかでターゲットニーズが変わってきたり「年々こうなってきてるよね」みたいな傾向を肌で感じることはありますか?

鳥居さん

50~60代の人がターゲットといいましたが、最近は、若い世代の人たちの購入が増えているっていうのも肌で感じますね。

イノウエ

若い世代、30代くらいですか?

鳥居さん

そうですね。地元のドラッグストアさんがお菓子メーカーと組んで、トリイソース味のいろんなお菓子を出してて。それがすごい影響ありますね。

ドラッグストアって若い方も利用するじゃないですか。それで認知度がだいぶ上がりました。

イノウエ

想像もしなかったような広まり方というか…。

そういう広まり方をするんですね!

鳥居さん

実は調味料ってすごく勇気がいる商品なんですよ。1回買ったらなかなか減らないでしょ?

イノウエ

たしかに、1回買ったらなかなか減らないですし、買い替えないですね。

鳥居さん

調味料がずっと残ってると罪悪感を感じちゃうんですよ。でもお菓子だったら「試しに買ってみよう」って気軽に手に取ってもらえる。

お菓子っていう入り口ができたから、若いお客さんも増えてきてるんですよね。

こだわりが詰まった、トリイソースの「贅沢なソースの使い方」とは

イノウエ

幅広い世代に愛されているトリイソースですが、鳥居さんがおすすめする「トリイソースの贅沢な使い方」

鳥居さん

「価値ある贅沢」っていう意味でいえば、和の食材とか和食にウスターソースを1滴垂らしてもらいたいですね。

イノウエ

和食ですか、意外…。

例えば、どんなメニューに合うとかありますか?

鳥居さん

おすすめは、みそ汁とかお正月だったらお雑煮とか。

1滴垂らすだけで、ほんのわずかに味が変わるんですよ。

イノウエ

これだけ野菜のうま味やスパイスが入っていれば…。

でも味の想像ができないですね(笑)。

鳥居さん

その「わずかな変化」ってところが、1つの贅沢なんじゃないかな。フレンチレストランのシェフから「賄いにトリイソースを1滴垂らすだけで、味がガラッと変わるよ」っていってもらったことがあるんです。

でも実際は、1滴垂らしても味なんてほとんど変わんないですよ(笑)。でも分かる人には分かるっていう世界、それを楽しむことに価値があるかなって思います。

イノウエ

さっそく試してみたくなりますね。

鳥居さん

もう1つの「贅沢」があるんですけど。それは「無駄なことをする」っていう贅沢。

イノウエ

好きです、そういう贅沢は(笑)。

鳥居さん

僕がよく食べてるの「唐揚げ」なんですが、うちのウスターソースで鶏もも肉を漬け込んで片栗粉まぶして揚げるんです。

イノウエ

唐揚げ?ソースにお肉を漬けちゃうんですか?

考えたことなかったです。

鳥居さん

そう、漬け込みにうちのウスターソースを使ってもらうっていうのは、すごい贅沢な使い方。

ニンニク醤油に漬け込むのと同じ理屈なんですけど。「かける」っていう使い方のソースの量に比べると、漬け込みってすごい量を使うので「もったいない」って感覚があるんです。

でもそれをやっちゃう唐揚げっていうのがすごい僕のなかでおいしい、非常に贅沢だけどおいしいよって(笑)。

イノウエ

わあ~、やってみたい!これは本当に贅沢ですね。

まとめ

全て手作業で詰め込みまで行われてました。

商品も情報もインターネットですぐに手に入る時代だからこそ「ここでしか手に入らない」という価値が注目されています。商品の生い立ちや購入するまでのストーリーが、人々の心をワクワクさせるのではないでしょうか?

鳥居さんがこだわる「地元に密着したソースづくり」も、おいしさ以上の価値に繋がっているのだと感じました。1本のソースに込められた作り手の思いが、ソースの瓶を手に取った人にも伝わっていくのかもしれません。

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