【横浜ベイブルーイング】クラフトビールを生産する個性溢れる醸造家のビールを飲めば、ビールが好きになる
コト 2020.02.20 by G-lip E 編集部
日本のクラフトビール市場は右肩上がり。2018年には、クラフトビールを主業とするメーカーの約6割が増収傾向※にあり、若い年代を中心に健康志向などを理由に、ビール離れが進んでいるといわれるなか、その裾野を広げています。
読者のなかには、今までにない新しい味と出会いを求めてクラフトビール専門店を訪れる方も多いのではないのでしょうか。
そこで今回は、ビールの本場チェコのビアコンペ(THE GOLD BREWER’S SEAL 2014)で、アジア人として初の金賞を受賞するなど、世界を舞台に活躍する『横浜ベイブルーイング株式会社』の代表取締役 醸造責任者 鈴木真也さんに、クラフトビールを美味しく飲むコツをはじめ、日本のクラフトビール市場の“今”を伺ってきました。
イノウエ
僕ら20代の世代だと、ビールは苦手で飲めないという人が多いんですが、クラフトビールをきっかけにビールが好きになったという人もいて、やっぱり違うものなんでしょうか。
鈴木さん
クラフトビールからビールを好きになった、という人のほうが多いですよね。大手メーカーさんのビールは苦味が、最後に残るように作られているものが多くて。自分が手掛けている「BAYSTARS ALE」は、横浜スタジアムで販売しているんですけど、入門編のように飲みやすく作っていて、これを飲んでから、ビール自体を飲めるようになったという人もいるので、造り手としては嬉しいかぎりですね。
イノウエ
野球を観ながら飲んだビールがきっかけで、ビールを好きになれたら良いですね。
鈴木さん
ビールを飲む場所じゃなくても、野球を観るとか、映画を観るとか、遊びに行った施設にクラフトビールが販売されてたとか、クラフトビールが飲める環境が増えていけば、興味持ってもらいやすいと思うんですよ。
イノウエ
たしかに、生ビールは販売されていても、クラフトビールはメニューで見ないことがほとんどです…。でも、見たことない、聞いたことがないビールがたくさんあった時は、逆に選びきれないと思うんです。アレも、コレも飲んでみたいって。
鈴木さん
鈴木さん お店のメニューにどれだけの詳しい情報が書かれているかわからないですけど、指標として、IBU(International Bitterness Units/国際苦味単位)と、SRM(Standard Reference Method/ビールや麦芽の色度数)、それにアルコール度数を見れば、だいたいの味を想像をすることはできるんですけどね。
イノウエ
アルコール度数とIBUとSRMですね…(メモ) その数値を見れば判断できるということですか?
鈴木さん
でも実際には、その数値やらって、お店のメニューには掲載されていないことが多くて、載っていない場合、お店の人に聞くしかないんですよ。
イノウエ
IBUとSRM…忘れちゃうかもしれないので、今度行った時は、お店の人にオススメを聞いてみます!
鈴木さん
後は、アルコール度数の高いビールから飲み始めると酔っ払ってビールの旨味がわからず、本来の楽しみ方がわからなくなってしまうので、まずはピルスナー(標準のビール)から飲み始めて、だんだんとホップの度合いを上げて苦味を強くしていくといいと思います。
ビールにもトレンドがある?オススメのビールと楽しみ方
イノウエ
例えば、お店の方にワインのように、料理に合うビールを聞くのはありですか?
鈴木さん
うーん…なんでも合いますよ(笑)。基本、ビールはなんにでも合うと思ってるタイプなので。その質問にすごい弱くて、聞かれると困っちゃう…。
イノウエ
マグロの赤身とビールを飲むと鉄の味がすると、嫌がる人もいますよね。
鈴木さん
マグロの赤身とビールとは合わないと言う人もいますが、それは“薬味”次第だと思っていて。ビールに使われるホップと山葵は相性が良くて、近い香りがするんですけど。 僕は、香りの良いわさびを使って、高知のさしみ醤油とあわせて食べる刺身が好きですね。
イノウエ
だとすれば肉料理にわさび×クラフトビールも旨そうですね。
鈴木さん
香りの良いわさびとビールは相性が良いので、ぜひ試してみてください。
イノウエ
鈴木さんの知っているクラフトビールでおススメはありますか?
鈴木さん
そうだな…2018年の『World Beer Cup』(ワールド・ビア・カップ)で、4種類しかエントリーできないのに、2カテゴリーずつ受賞している新星のRevision brewery Company (リヴィジョン ブリューイング)と「Firestone Walker」(ファイアストーン ウォーカー)がおススメですね。
イノウエ
どんな特徴のあるビールなんですか?
鈴木さん
パインジュースみたいな色をしている白く濁ったビールがアメリカで流行っていて、ホップが多めに入っているのに苦味を出さない技術で作り、ホップのアロマだけをジューシーにフルーティーに感じられるようになっています。アルコール度数は高めですが飲みやすいのでビールが苦手な人でも楽しめると思います。
イノウエ
ビールにもトレンドがあるということですか?
鈴木さん
そうですね。アメリカがトレンドの発祥になることが多いですね。 僕がおススメするクラフトビール以外にも、アメリカのクラフトビールを専門に取り扱っているお店が、横浜や品川にあって、『アンテナアメリカ』というお店なんですけど、是非飲みに行ってみてください。
日本のクラフトビールのブームはこれから?
イノウエ
そういった輸入品ビールもふくめて、若い世代を中心なのか、クラフトビールが人気になってきていますよね。
鈴木さん
それは世界的な流れですね。ビール大国のアメリカだとクラフトビールの占める割合が全体の20%くらい、対して日本は0.5%くらいといわれていて、ビール製造の大手4社が占める割合が圧倒的に高いのが現状なんです。日本だとクラフトビールが盛り上がっている地域は、まだまだ少ないので、これからもっと拡大していけば良いですね。
イノウエ
アメリカと比べると、クラフトビールが普及してないんですね…。 日本のクラフトビール市場はどうすれば盛り上がっていくんでしょうか?
鈴木さん
まず問題は、ビール職人を育てる教育機関がないことで。ビール職人を志したとしてもどこで勉強して良いのか分からない。それに日本だと成人してからビールを飲むようになるので、海外のブルワーと比べても、ブルワーを志す年齢が遅くて、海外と比べて造り手の数が少ないんですよね。
イノウエ
たしかに「ビール職人を目指してる」という人を、聞いたことない…。
鈴木さん
造り手を増やすのはもちろん、クラフトビールに関連する会社で、ホップ農家や瓶の製造業者、ノベルティなど専門に扱う業者などを含めて、海外にはクラフトビールを専門に扱う業者が、1つの産業として確立されているので、日本もまだまだ、活性化させていかなければならないですね。
横浜を世界に通じるクラフトビアシティにしたい
イノウエ
そうなってくると、クラフトビールの魅力をもっと知ってもらうことが、重要なんですか?
鈴木さん
今は、「横浜をクラフトビールの街にしよう!」ってスローガンを作って、周りの人達と『横浜クラフトビアマップ』を制作したり、クラフトビールで横浜を盛り上げる活動はやってますね。
イノウエ
横浜といえばキリンさんの(SPRING VALLEY BREWERY)をはじめ、今後は大手4社がクラフトビールへの本格的な参入も考えられますよね?
鈴木さん
そうですね、今はキリンさんが物凄く頑張ってくれていますけど。大手さんにはどんどんクラフトビールの生産に加わってもらいたいです。クラフトビール業界全体が盛り上がって、今よりもっと大きなムーブメントが起きるといいなと思っています。
イノウエ
ライバルが増えるというわけではなく、業界を盛り上げるという点で大手さんにも参入をしてもらいたいんですね。
鈴木さん
もちろん負けないようにはしますけど、日本全体でビールの消費量は減少し続けていて。お酒を飲まない人も増えている中で、いかに魅力を伝えて、グラスを手にとってもらえるか重要になってきますよね。
イノウエ
クラフトビールには、自分好みの探す楽しさがあると僕は思いますね。
鈴木さん
仕事を終えて、飲まないで帰るという人が増えてますからね。値段も少し高いので、どこか飲むことの楽しさを見つけてくれればと思いますね。
イノウエ
鈴木さんの工場では、年間どのくらい量を製造しているんですか?
鈴木さん
うちは年間で160㎘くらいですね。神奈川県はビール醸造所が27ヶ所(※)あって、競合が多くて規模的には4番目くらいで。できれば今年の冬から来年にかけてタンクを増設し出荷量を300㎘くらいに増やしたいと思っています。 (※)国税庁HPよりhttps://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/sake/beer/kanagawa/kanagawa.htm
イノウエ
今の課題は出荷量を増やすことなんでしょうか。
鈴木さん
タンクを増やすだけでなく、工場の設備ももっと充実させたいですね。煮沸の温度をもう少し上げたかったり、改良したいところを言い出したら切りがないんですけど、大きな目標があるのでそれに向けてやることはたくさんありますよ。
まとめ
日本のクラフトビールは「地ビール」というジャンルから始まりました。これは、1994年に酒税法が改正され、ビールの小規模醸造が可能になり誕生したもので、当時は地方で出会えるお土産や観光の域を出ることができませんでした。
それから約25年、都心には専門店が並び、大手コンビニとコラボレーションした銘柄も発売されるなど、クラフトビールは身近なものになりつつありますが、文化として根付くには、まだまだ時間も人手も足りないようです。
鈴木さんのように世界で活躍する醸造家を目指し、ビール工場の門を叩く若い世代が増えれば、日本のビール文化はさらに進化するかも知れません。
次回は、そんな世界一のビール醸造に人生をかける鈴木さんの、クラフトビールとの出会いや今後の目標などパーソナルな部分を伺います。