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【COEDOビール】埼玉から世界へ翔く 小江戸の街で作られるクラフトビール

モノ 2020.03.30 by G-lip E 編集部

作り手のこだわりが詰まったクラフトビール。近年種類が増加しており、『少し贅沢なビール』として楽しまれる方も多いのではないでしょうか?

 

埼玉県は川越市に、クラフトビール界の一人者が存在します。その名もCOEDOビール。

実は世界最大のビアカップ、WORLD BEER CUPにて銀賞を獲得した、日本のクラフトビール界をけん引するブルワリーです。そこで今回、こだわりを貫き通すブルワリー、COEDOビールを取り上げ、ビールで地元を活気づけたいという想いや、サツマイモを使ったクラフトビールの誕生秘話、そして世界での販売へ至る道のりについてお伺いしました。

 

㈱協同商事の代表取締役社長 朝霧重治さんがCOEDOブランドに込めた想い、地元川越から世界へ羽ばたくクラフトビール造りの姿勢から課題への向き合い方を学びました。

<インタビュアー/イノウエ、からすけ>

地元川越の「農」に敬意を 青果会社が始めた世界へ羽ばたくビール造り

イノウエ

朝霧さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします。

朝霧さん

はい、よろしくお願いします。

イノウエ

川越発のクラフトビールとして有名なCOEDOビールですが、最近いろいろな所でお見かけするんです。主にどちらで販売されているんでしょうか?

朝霧さん

基本的には日本全国流通にしておりまして、主に百貨店や高級スーパーさん、こだわりの酒屋さんでお取り扱いいただいており、海外では20ヵ国へ輸出させていただいています。

イノウエ

世界20ヵ国ですか?

どちらの国での販売が多いんでしょうか。

朝霧さん

意外とね、フランスで評判が良くて。日本料理店が多いので、よく取り扱っていただいていますね。

ビールの本場ドイツよりも、ポジショニングするポイントがあるんですよ。日本のビールが入っていく隙があるというか。

本名:朝霧重治 1973年、COEDOビール発祥の地、埼玉県川越市に生まれる。一橋大学商学部卒業後、三菱重工業株式会社に就職した後、1998年に株式会社協同商事入社。その後、株式会社協同商事コエドブルワリー(現)代表取締役社長を務める。 2003年に代表取締役に就任し、ビール事業に着手。2006年には『COEDOブランド』を発表し、サツマイモを原料としたビール『紅赤』を始め、数々のクラフトビールを世に送り出す。現在は代表取締役社長として会社を取り仕切ると同時に、ビールの楽しさを伝える「ビール伝道士」としても活躍している。

イノウエ

地元の川越を飛び越え、世界で見かける機会もあるということですね。

朝霧さん

本当に、世界各国の方に楽しんでいただきありがたいですね。

イノウエ

今や全国的に有名なCOEDOブランドですが、立上げにはいろいろなご苦労があったと思います。

朝霧さん

そうですね、一筋縄ではいきませんでしたね。

イノウエ

COEDOブランドの前身である協同商事は川越の青果会社として創業したとのことですが、なぜ青果会社がビール事業を始めることになったんでしょうか?

朝霧さん

私ども協同商事は、川越で35年以上農業に関わらせていただいていて、地元農家さんの流通を手伝う仕事を行っていました。

川越は、麦を緑肥として使うために畑に麦を撒くんですが、その麦を収穫せず畑に埋めることをしていたんですね。でもこれはもったいないよねということで、『何かできないか』と思ったんです。

イノウエ

それが川越で収穫される麦で、ビールを作ることだったと?

朝霧さん

そこで出たアイディアがビールだったんです。麦をただ収穫して、麦として普通に売るっていうことは、あまり実のある話じゃなくて。

じゃあ、それを有効活用するには、何か食品に加工してみたらいいんじゃないかということで。

朝霧さん

ただ、そもそも麦が日本ではほとんど自給されてなく、国内の麦芽を作る独立した産業もないので、当然、麦芽も生産されてないわけですね。

ビールは麦芽、つまりモルトから生まれますので、日本に独立した精麦産業がないことに非常に苦労しました。結果、麦でビール造りをするのは諦めざるをえなかったわけです。

イノウエ

原料が供給されないというのは難しい問題ですね。

朝霧さん

そこで目を付けたのが「川越芋」で有名な、『紅赤』(べにあか)のサツマイモでした。

イノウエ

川越の街で食べ歩きができる、あのサツマイモは川越の名産だったんですね。

朝霧さん

なかでも、大きさや形が悪いサツマイモが廃棄されていたことに注目して、これはもったいないんじゃないかと思いまして。

サツマイモはアルコール発酵に必要な糖分が多く含まれていますから、これは上手くいくんじゃないかと。

イノウエ

初めは麦で取り組んだけど、上手く行かず、同じ川越で収穫されるサツマイモに変更してみたと。

 

朝霧さん

サツマイモで焼酎を作る地域もありますから、それをビール造りに応用していくことで誕生したビール。COEDOビールはそこが原点なんです。

ビールの楽しさを伝える COEDOブランドができるまで

イノウエ

地元農業を支援する目的から、川越で収穫されるサツマイモを使ったアイディアが生まれたんですね。

朝霧さん

昔「川越藩」だった川越や三芳町の地域で収穫されるサツマイモの出荷過程で規格から外れるイモがどうしても出てしまうんでね、それをどうにかできないかなと。

イノウエ

形だけではじかれてしまう規格外ですね。

朝霧さん

そう、それで昔から作っているサツマイモの品種『紅赤』を使って、ビールを作り始めたんです。

イノウエ

焼酎でも、サツマイモを原料にしている地域ありますもんね。

朝霧さん

しかしながら、どのようにサツマイモを使えば上手くビール造りに表現できるのかは、教科書があるわけではないので。煮るなり焼くなりふかすなり、試行錯誤する中でたどり着いた方向が焼き芋にすることだったんです。

イノウエ

焼き芋だけでも、すでにおいしそうですね(笑)。

朝霧さん

ええ(笑)。それで焼き芋を発酵させお酒にするんですが、日本の法律ではサツマイモを原料にしたお酒はビールと名乗れなかったものですから。

イノウエ

発泡酒のカテゴリーになるんですね。

朝霧さん

そうです。海外ではビールとして取り扱える国もあるんだけども、日本のラベルでは発泡酒の表記をしなければならない。

でも、海外へ輸出する時は『Beer』の表記でラベルにできたりするんですけどね。

イノウエ

日本では発泡酒、海外だとビールなんですね。

法律の都合とはいえ不思議……。

朝霧さん

それで、この『紅赤』を皮切りに複数のビールを開発していきまして、皆さまにご愛飲いただいている定番商品や、期間限定ビールへと繋がっていきます。

地元のサツマイモから生まれた『紅赤』があったからこそ、今のCOEDOビールがあるんですね。

イノウエ

紅赤を生み出すまでのノウハウが、今のCOEDOブランドを支え、技術を培うきっかけになっていったんですね。

朝霧さん

1996年にはじまって、20年以上経ちますから、完成度を高めていくために、ずっとを見直してやっと、今のCOEDOっていう形ができたんです。

COEDOブランドの強みとこだわり

イノウエ

ビール造りを通じて、培ってきた技術や、蓄積したノウハウなどあると思いますが、ブランドとしての強みやこだわりはありますか?

朝霧さん

ブランドの強みは、やっぱり長年培ってきた技術ですね。COEDOビールは観光や地域おこしのその先、地域をブランディングするビール造りを心がけていて、他のブルワリーさんと比べたときの強弱ではないですけども、やはり長年積み上げてきたビールを作る技術は基盤として持っていますね。

イノウエ

先駆者ならではの強みですね。

朝霧さん

その甲斐あってか、様々な賞をいただいております。世界のビールが集うワールドビアカップでは、2010年・2014年・2018年と3回の銀賞をいただきました。

それらが積み重なって、COEDOビールをさらに知ってもらえるきっかけになったように思えますね。

イノウエ

賞をもらうというのは嬉しいだけじゃなく、知名度のアップにも繋がりますよね。

朝霧さん

そう、それに商品の「パッケージ」は非常にこだわっていますね。

イノウエ

随分とスタイリッシュなデザインですが、パッケージから中身が想像できるところも凄いなと思います。

朝霧さん

まさにそれがパッケージの狙いなんですね。COEDOビールの商品名は、それぞれ液体の色を表した名前になっておりまして、中身の色とリンクさせたパッケージ作りをすることが、ブランド創業当初から続けているルールになっていたりね。

イノウエ

紅赤(べにあか)とか、漆黒(しっこく)ですね。

朝霧さん

そう、ビールの種類によってが異なるので、そのバリエーションやクラフトビールならではの「手作り感」も楽しんでもらいたくて。

ビールの豊かな世界を、日本の方たちにお伝えしたい。バリエーションの豊富さが、クラフトビールの面白さの1つですから。

イノウエ

種類の多さや手作り感はクラフトビールならではの楽しみ方なんですね。

朝霧さん

オートメーションで大量生産をするだけではなく、職人的に手作りで物を作るっていうのがビールの世界にもあるんですよね。

少量生産で、高品質かつバリエーションが豊富。そういうビールを作るのがクラフトビールの役回りなんですね。

イノウエ

確かに、買う時に限らず、作り手のこだわりが強く表現されているクラフトビールを飲む時、普段飲むビールとの違いが気になったり、「どんな味」なんだろうと想像が膨らみますね。

朝霧さん

それが、ビールが持つ豊かな表情を楽しんでいただく。「Beer beautiful」をコンセプトに、COEDOブランドを築き続けてきた結果かなと思っています。

ビールは楽しく、ビールを美しく、ビールは自由に

イノウエ

今の『COEDOブランド』は、創業当時から先代が築き上げてきたものを、朝霧さんが受け継いだということでしょうか?

朝霧さん

以前は、今の「COEDO」っていうブランドじゃなかったんですよ。いわゆる「地ビール」的なものだったんです。

イノウエ

クラフトビールという言葉が最近のように使われる前までは、地ビールだったんですね。

朝霧さん

地ビールが悪いわけではないんだけれども、私どもが大切にしていたのは、農産物が持つパワーを職人的に丁寧に作ったビールとして表現すること。

なので『クラフトビール』という新たな市場を作るためにビールの本来の豊かな世界と農業の魅力を伝えることにしたんです。

イノウエ

新しい市場を作るのって、ものすごいパワーが必要だと思いますが。

朝霧さん

ええ、うちは上場もしてない小さなブルワリーですから、テレビCMで広告もできません。

根本的にはコツコツ地道に営業活動を行いながら、あくまで自社のこだわりを崩さないように、着実にやってきたんですね。

朝霧さん

我々COEDOがコンセプトとしているのは『Beer beautiful』「ビールはすばらしい」。

それをどうお伝えするか、時代に合わせ表現を変えていますが、根本の想いは変わらず、ビールの美しさや楽しさをお伝えすること。それはCOEDOとしてこれからも変わらないですね。

イノウエ

ビールが持つ楽しさですか…?

朝霧さん

ビールはとても自由なものなんですよ。ワインや日本酒って様式美的なところがあるんですけど、ビールはフリースタイル。

ビールの香りをホップにゆだねるのもいいし、後から香り付けをしてもいい。結果的に発泡酒になることもあったり。

イノウエ

クラフトビール造りって、ブルワーさん自身の独創性をダイレクトに表現できそうですね。

朝霧さん

例えばワインを辿ると、原料であるブドウに大きく委ねられますので造り手の個性がそこまで強く表現できないんですよね。

ブドウの当たり年は美味しいワインができるといいますし。ビールの場合は、穀物が年によってそこまで変化することはないので。それをどうしようっていうのは職人の手によるものが大きいんですね。

イノウエ

ビールのスタイルに合わせて造り手の個性を表現しやすいんですか。

朝霧さん

クラフトビールのスタイルは、オフィシャルなだけでも100種類以上はあります。

それで少量で突拍子もないスタイルのビールを作ってみたりね、そういう自由な創造性があることをお伝えしていきたいですね。

イノウエ

ビールは自由っていいですね!

クラフトビールを通じて、日本のビール市場がもっと楽しくなりそうです。

地域に支えられた「紅赤」誕生から、Made in 埼玉を目指す

イノウエ

今後、COEDOビールが実現を目指している世界というのはあるんでしょうか?

朝霧さん

やっぱりね、地元農業への想いっていうのはあって。

地域農業とビール事業をもっと結び付けていきたい。クラフトビールがある地域なんて素敵じゃないですか。

イノウエ

たしかに、地域ごとのクラフトビールがあったら面白そうですね。

朝霧さん

以前はそれが『地ビール』だったと思うんですよ。でも今はクラフトビールなので、いつかまた「地ビール」と名乗り直せるようになりたいですね。

地ビールのお土産品的なイメージが払拭されて、地域の産業として確立するものになって欲しいです。

朝霧さん

ビールが「観光・ご当地」になるのは結果的な話であるべきなんです。

地域の方たちの生活に取り入れていただいて、「やっぱりビールって美味いよね」っていってもらう、クラフトビールとか関係なく、日常的に楽しんでいただければと思っています。

イノウエ

そうなったら、日本各地がもっと賑やかになるんじゃないでしょうか?

朝霧さん

そうなんです。地ビールって本当は、地域を豊かに、元気にする力を持っていると思いますし。私はビールも「農産物」だって思っているんですよね。

イノウエ

ビールが農産物…?

朝霧さん

例えば「紅赤」は、地元のサツマイモを原料に作った農産物。地元でビールに使える小麦が栽培できれば、それも立派な地産地消の農産物ですよね。

イノウエ

たしかに…。

朝霧さん

COEDOも原材料の麦を今は世界各国から買い付けていていますが、産地から直接買うので商品価格を抑えられていますし、それ自体が悪いことではないと思っています。

仮に、農業がバックグラウンドにあるCOEDOが、地元の方に協力いただいて原料となる麦まで栽培する。自前の材料を使ったジャパニーズビールを作っていく活動ができれば。川越がより個性ある街になれると思いますね。

イノウエ

今よりさらに人気が出そうですね(笑)。

朝霧さん

それに、食品産業は歴史が価値になるんでね。地元川越には、200年以上つづく和菓子屋さんがあるんです。そして老舗というのは、その歴史が価値を生み出す。

だから、COEDOが100年以上つづくビールになって欲しい、ビールを通じて地域農業を元気に、最終的には地元の産業に還元するビジョンを見ていますね。

イノウエ

歴史が価値になる老舗企業ですね。

朝霧さん

だからこそ、もっと世界の人たちに飲んでもらいたいし、世界から川越に飲みにきてもらいたい。

川越でしか飲めないビールを作って、「飲みに行きたい!」と思わせるブランドにしたいですよね。

イノウエ

ビールが目的で旅をする方が増えるかもしれないですね。

でも本当に地元川越を愛し、農業に対して真摯に向き合っているからこそ思い描けるビジョンなんだと思います。

朝霧さん

農産物には思っている以上にすごいパワーが秘められています。COEDOビールを通じ、川越の農業が持つパワーをみなさんに知って欲しいですね。

まとめ

ビールは農産物、農産物にはすごいパワーがある。その言葉を裏付けるように、地元から始まったビールが世界をめぐり、地元に人を呼ぶビジョンまで見せています。

ビールで地元を元気にしたいというその気持ち、どこまでも「農」に対して真摯な姿勢、その真剣さがあってこそ、COEDOはここまで成長したのではないでしょうか。

こだわりを大切にしながらコツコツと誠心誠意全力で取り組んでいく。COEDOビールの地元農業に根ざした企業努力を伺うことができました。

 

<ライティング/からすけ>
<編集/イノウエ>
<撮影/成瀬>

 

 

 

編集後記

編集部は取材後、ブルワーから少し離れた小江戸川越へ行き、地元に根ざした『COEDOビール』の姿を拝見しました。

小江戸川越にある、地ビールと地酒の舛屋酒店では、サーバーから一杯一杯注がれる生ビールを楽しむことができます。

その他、小江戸川越では複数の飲食店さんでCOEDOビールを扱っており、社長の朝霧さんが、地元川越を大切にする想いを街を散策することで感じることができます。

 

クラフトビールがきっかけで、「川越を訪れてくれたら嬉しい」と話してくれた朝霧さんに納得させられる取材となりました。

 

 

<ライティング/からすけ>
<編集/イノウエ>
<撮影/九鬼>

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