ラッパーDOTAMA 脱サラしたからわかる、自分を律することの厳しさ
ヒト 2019.12.20 by G-lip E 編集部
ラッパーを専業とし、活動を始めてから10年以上になるというDOTAMAさん。
サラリーマンラッパーとして活動をしながらも、ラップ活動を続けていくうちに、ある時、会社員としての専業という、人生の岐路に立たされることに。
人が「好きなことを仕事にしたい」と考えるように、DOTAMAさんもまた、音楽という道を選択する。
サラリーマンとして10年間勤めていた経験から学んだことは多く、個人としてラップ活動する現在。「仕事に対する向き合い方や、楽曲制作に秘めたこだわり」について、普段のライフスタイルを伺ってきました。
〈インタビュアー:イノウエ〉
イノウエ
今日はDOTAMAさんのラップに対するこだわりについてお話を伺いたいと思いまして。
DOTAMAさん
ありがとうございます。よろしくお願いします。
イノウエ
会社員を辞めてから、現在では「スーツを着た毒舌ラッパー」というスタイルで活動されていますけど、ラップを始めた頃はどのようなラッパーを目指されていたんですか?
DOTAMAさん
そんなに毒舌ですかね(笑)。 特に誰かのようになりたいというロールモデルは居なかったです。ただ、漠然としてるんですけど「新しいことをしたい、カッコいいことをしたい」という思いはあって。
そこは変わらず、今もブレてないと思います。
イノウエ
「この人みたいになりたい」 という人がいなかった。
だからラッパーとして、新しいスタイルを作りたかったということでしょうか。
DOTAMAさん
いや、僕がHIPHOPを始めた頃はそういう時代だったんですよ。
「とにかく、オリジナリティを競い合え」みたいな。「人と違うことをするんだ」と。
イノウエ
個性を出せということでしょうか…
DOTAMAさん
誰もやってない、新しいことをしてやる、面白いことをしてやるという空気の中で育ったので、それが染み付いてるんですよ。
先輩方の中には、すごい甲高い声でラップする方もいたし、すごいデスボイスで歌うMCもいた。自分も真似して喉を壊したり(笑)。楽しかったですね。
イノウエ
そんな環境から、今の「スーツ姿でラップをする」スタイルが生まれたんですね。
DOTAMAさん
そもそも、自分が好きになったHIPHOPっていうもの自体が、ストリートカルチャー、カウンターカルチャーということが強く影響してます。
イノウエ
HIPHOPの文化がDOTAMAさんのスタイルに影響していると?
DOTAMAさん
1970年代、アメリカのニューヨーク。当時のブロンクス区のブロックパーティで流れたブレイクビーツが最初のHIPHOPです。
街の住民が、野外に集まってパーティをする。そこで流れるのは当時のヒットチューン。そのアナログレコードの音楽を、2台のターンテーブルを使い、曲の間奏のドラムを部分的に延長して、ダンサーや街のみんなが躍りやすくするのが、DJの始まりだった。
DOTAMAさん
それが40年以上前。そこにマイク使って言葉を乗せたのが、MC、ラッパーの始まりだと言われています。
つまり、HIPHOP自体が、それまでの「パーティのスタイルを変えてみよう」「面白くしてみよう」っていう、「新しいことに挑戦しよう」という理念なんだと僕は捉えてて、HIPHOPとは新しいことに挑戦する文化だと、僕は思ってます。
イノウエ
新しいことに挑戦することが、DOTAMAさんが考えるヒップホップというわけですね。
DOTAMAさん
色んな考えを持ったラッパーがいますけど。僕は新しいことに挑戦できていれば、それはヒップホップだと思っています。
それと、自分のリアルをどれだけ歌えるか。自分の歌詞のテーマに働くことや、社会の摩擦について歌った内容が多いのは、サラリーマンだった自分のバックボーンや、現代社会に生きる人間としてのリアルを、表現できればと思ったからです。
スーツはその後付けできてますね(笑)。
自分を律しないと良い曲を作ることはできない
イノウエ
ラップで曲を作る時に、「曲を書く、詩(詞)を書く」という言葉に疑問があって、歌詞を書いた後に音(ビート)を作るという意味でしょうか?
DOTAMAさん
もちろん歌詞から曲を作る人もいるだろうし、ラッパーの数だけいろんなやり方があると思います。でも、ほとんどの人が、ビート、つまり声を乗せる音があり、そこから歌詞を書く作り方なんじゃないかと。
表現が少し違うかもしれないんですけど、弾き語りのシンガーさんとか、他のジャンルのアーティストさんと同じで、「歌を作る」という感覚なので。僕もビートを聞いてから歌詞を書くことが多いですね。
イノウエ
その楽曲制作で納得した曲を作るためには、自分から主体的に動く必要があると思いますが、サラリーマンの経験から活かせていることはありますか?
DOTAMAさん
脱サラしたからわかることなんですけど、僕は栃木のホームセンターで10年間、サラリーマンとして働いていて。仕事には納期があってスケジュールがあって、品質も一定の状態に保って、取引先などに納めなければなりませんでした。そういった意味では、音楽で生計を立てている現在と、やっていることは正直そんなに変わらない気がするんですよね。
イノウエ
どちらも経験しているから、本質的なことは同じだとわかるんですね。
DOTAMAさん
ただ、サラリーマン時代との最大の違いは、自分で自分を律しなければならないことです。
会社員の時は会社が自分を律してくれましたけど、ミュージシャンとかアーティストは、自分で自分を律しないといけない。
DOTAMAさん
イチローさんじゃないですけど、自分に厳しくしてないと、ちょっとしたことですぐレールを外れてしまう。一見自由に見えるアーティストこそ、自分に厳しくしないとできない仕事なのかも、と思いますね。
イノウエ
そうした、自分を律するという点で、意識されていることはありますか?
DOTAMAさん
サラリーマン時代と同じように朝起きて、ご飯食べたら歌詞を書いたり、楽曲制作をする。
終わったら切り替えるという、1日のライフスタイルを大事にしてることです。
後は…走り込みですかね(笑)。これ冗談じゃないんですけど、僕らラッパーはライブの間、ひとりで、ずーっと喋らなければならないわけですよ。
DOTAMAさん
今年の春先にライブツアーで4ヵ所回った時も、もちろんステージにDJはいて、DJも大変なんですけど、ひとりで2時間半、30曲を全力で歌うので、体力勝負なんです。 より良いライブ、ステージングをできるようにするための、訓練ですね。
サラリーマン時代に学んだことがラップに生きる
イノウエ
DOTAMAさんと同じように、脱サラされたラッパーのKEN THE 390さんが、会社を辞めた当初は、自分でスケジュール管理ができなかったそうですが、DOTAMAさんはその辺り、きっちりできましたか?
DOTAMAさん
いや、全然ですよ(笑)。KENさんのほうが僕より遥かにテキパキされていると思います。僕は、サラリーマン時代からお世話になっているインディーズのレーベルで、CDを9枚くらい出させてもらったり、そこでお世話になった社長2人に、怒られながらやってました(笑)。でもあの日々があったからこそ今の自分があります。本当に感謝しています。
イノウエ
DOTAMAさんを律してくれた方々なんですね。
怒られたのは楽曲制作についてですか?
DOTAMAさん
そうです。クオリティや納期についても。「一定の面白い曲を作れないんだったら、もうリリースはできない」と。恐らくこれは一般の会社でも同じですよね。顧客が満足するクオリティじゃないと出せないというのは、同じだなと思いました。
DOTAMAさん
いろんな考えがあると思いますが、自分の場合は、サラリーマン時代も脱サラした後も、厳しく指導してくれる上司や先輩の皆さんがいたから、独立した後も、ひとりでやれるようになったと思っています。それによって、自分に対する評価基準も自然とできたから、「ああ、これじゃダメだな」というのもわかる。
イノウエ
誰かに指摘してもらえることは恵まれている環境なんですね。
自然にできた評価基準とは、楽曲のレベル感ですか?
DOTAMAさん
たとえばレコーディングをしている時、ラップの場合は1ヴァースがたいてい16小節で、それを何テイクかレコーディングするんですけど、10テイク録って、「7テイク目と9テイク目がいいです」とエンジニアさんに伝えても、全く見分けがつかないとか。
「DOTAMAさん、変わんなくないすか?」「え、全然違うでしょ」みたいな感じで言い合いになったりして(笑)。
イノウエ
ライブの時など、DJさんと一緒にチームでやっていて、意見が合わないこともあるんですね。
DOTAMAさん
もちろんありますよ。それは本気でやってるからこそ発生すること。逆に意見の齟齬が出ないと怖いですね。今、僕のライブDJは、DMC JAPANのベスト4にもなったDJ YU-TAがメインで、15年以上付き合いのある地元の先輩、DJ MOTOHIROがサブの、2人にやっていただいています。
DOTAMAさん
DJ YU-TAもストイックなんですが。MOTOHIROさんは僕の先輩なので、ガンガンダメ出しするんです。「あれは良かったけど、これは全然良くなかった」とガンガン言ってくれるんで、すごい助かってます。
イノウエ
なあなあになってしまうより、思ったことを言った方が良いものが生まれるんですね。
DOTAMAさん
会社じゃなく個人でやってるからこそ、言ってくれる人がいないと不安になってくるんですよ。軌道から外れちゃった時に、直してくれる人がいるというのは、同僚としても友人としても助かっていますね。
イノウエ
そうした楽曲制作についてのこだわりで、重視しているポイントとかありますか?
DOTAMAさん
20代の頃は、「オリジナリティをどう高めるか」という作業だったんですね。
でも、30歳を過ぎてからは、より広く、いろんな方に楽しんでもらえるような表現、メロディーを含めた楽曲作りを心がけるように、意識が変わってきました。
正直、僕の外見はメガネをかけてスーツを着てるので、あまりラッパーぽく見えない(笑)。
DOTAMAさん
その中で幅広いお仕事のオファーをいただけて、本当に感謝しかないんですが、そういったお仕事に拒絶反応を示す方も中にはいます。
そういう人にもどう楽しんでもらえるかを、いつも考えてますね。
イノウエ
最近では、企業さんのプロモーションなどに携わることも増えていますよね。
DOTAMAさん
有難いことにそうですね。ただ偉そうなことをいっても、独立したばかりで、自分の活動の維持や、いただいた仕事をこなすのに精一杯なんですが。
今、栃木県のPR大使をやらせてもらっていて、「栃木弁でラップをやってみたら面白いんじゃないか」と話合ってるところで、作るからには、カッコいい物にしなければならない。何を作っても、みんなが唸るような作品にしないと、と常に思っています。
イノウエ
楽曲を制作する時にも、戦略のようなものがあるんですね!
逆に、「こういうものが流行ってるから、それを取り入れよう」みたいなトレンドを意識したりしますか?
DOTAMAさん
これはみなさんそうだと思うんですけど、オリジナリティオリジナリティといいつつ、アーティストは絶えずトレンドを吸収して、それを自分の表現に落とし込んで、かつオリジナリティを維持しないと聴いてもらえない。
DOTAMAさん
それは当たり前ですけど最低条件ですね。戦略という仰々しいものではなく、息をするのと同じ感覚で、意識するようにしてます。
サラリーマンを辞める覚悟
イノウエ
DOTAMAさんは約10年間会社員として働いてたとのことですが、いざ辞める時に迷いはなかったんですか?
DOTAMAさん
それはありましたよ。僕は27歳で辞めたんですけど、誰しも30歳くらいで今後どうしようとか、自分の人生をいったん考えるじゃないですか。
それに、会社側としても管理職に誘ってくる年齢なんですよ。「資格取ったら管理職やれるから、取るか?」みたいにいわれたり。もちろん期待してくれているのはめちゃくちゃ嬉しかったです。
DOTAMAさん
でもそれに「はい」っていってしまうと、責任感を持たなければならない、断ったら断ったで、やる気のないヤツだと思われる。極論いうと「出世する気ないんだね、じゃあ隅っこで働いてて」みたいな。
イノウエ
たしかに、年齢で意識するキャリアではありますけど、DOTAMAさんは出世するのが嫌だったんですか?
DOTAMAさん
出世するのは嫌じゃなかったですし、上司も尊敬してました。
ただ、たとえば危険物取扱者の資格を取ると、やる仕事が増えて、責任も増える。そうすると、ラップをする時間も減ってしまうなと。
だから、辞める前に、必ずしも「俺は音楽でメシを食う!」と強固に思ってたわけじゃないんです。でも、もう働きながら音楽できる状況じゃなくなって。二者択一を迫られて、というのが正直なところですね。
イノウエ
当時はライブに頻繁に呼ばれていたみたいですけど、それもあって会社を辞めようと決心したところもありますか?
DOTAMAさん
その頃は毎週都内に通ってましたね。仕事が終わって栃木から東北自動車道を飛ばして、ライブして、終わったらそのまま仕事行くみたいな(笑)。当時はムダに体力があったんで、3〜4日寝ないで昼休みに仮眠したりして。なんとかやってました。
イノウエ
ストイックですね(笑)。
でもサラリーマンを辞めた後は、半年間ライブが入ってこなかったみたいですね。
DOTAMAさん
あのときは流石に落ちましたよ(笑)。でもバイトしながら、何をどう表現して、楽しんでもらえるか、曲のパフォーマンスをどう高めるべきか、考えてました。その経験がいま、役に立ってますね。
最近は、「忙しいでしょう、大変だね」ってよくいっていただけるですけど、「全然ですよ」って。
DOTAMAさん
「だって、好きなことして生活できるんだよ」って。当時もいまも、経済的にカツカツなのは変わらないんですけど、好きな音楽を好きなようにやれるので、楽しいなと思いますね。
もちろん独りよがりじゃいけない。お客さまに楽しんでもらえなきゃ。でもアーティストなら、好きなことをやるべきというのが、迷った時に思い出す自分のテーマですね。
イノウエ
経済的余裕がなくても、好きなことを仕事にできることが幸せに繋がるんですね。
まとめ
人生の岐路に立った時、あなたはどんな軸を持って選択しますか?
誰もが迷い、選択を迫られる人生の途中で、新しいことに挑戦し続けることがHIPHOPなんだ、と教えてくれたDOTAMAさん。
アーティストとして、曲を聞いてくれる方を想像し、求めらてるものに答えるために考え続ける責任感は、サラリーマンを経験しているからこそ、活かすことができたのだと思います。
自分の軸がブレてしまった時は、「どうなりたいか」思い出すことで、ヒントになるかもしれません。